中学受験・高校受験・大学受験・帰国子女を含む英語教育全般および
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2012.7.14
草津温泉の裏に六合村(クニムラ)という場所があり、そこに、白根開善学校という全寮制の学校があります。
今から三十年近く前になりますが、毎年夏になると、その白根開善学校をお借りして、高校生(高1から高3まで)と十日前後合宿をしていました。
その頃は現役高校生主体の予備校も経営しており、その最大イベントだったのです。
当時、開善学校は、正に、陸の孤島の趣があり、一番近い自動販売機が歩いて一時間余り下山した所にしかありませんでした。
川の中から温泉が出ているので有名な尻焼き温泉が、山の麓にあるのですが、大型バスはそこまでしか入れず、
生徒達を連れて二時間あまり、落石注意といたる所に書いてある山道を歩いて登らなければなりません。
荷物は職員の車でピストン輸送。
寝具は地元の貸布団屋さんから調達して、直接学校まで納品してもらいました。
寮室以外すべて解放していただき、連日連夜、ほぼ二十四時間態勢の指導でした。
ですから、毎年、4・5日過ぎると教員の中から倒れる者がでていました。
それが当たり前という雰囲気が教師にも生徒にもあり、今思うと一種異様な世界でした。
朝礼の時間と食事時間と風呂の時間だけは厳守でした。
食堂と風呂棟の使用は最低限に抑えて、節約しなければならなかったからです。
早朝から深夜まで、教室では授業が行われ、図書館は二十四時間電気が点いており、
講師部屋にも質問や議論のために、生徒たちが絶えませんでした。
朝礼では毎日、開善学校の創立者であり私が心から尊敬する、本吉修二先生に訓話をお願いしておりました。
この朝礼でのお話がきっかけになって、生徒たちが本吉先生の元に集まるようになっていきます。
昼間、本吉先生は各教室で行われている授業を、開善の授業をもっと良くするためのヒントが欲しいと言われてよく参観されていました。
そうした接点も効を奏して、合宿が始まって間もなく、先生の周囲には俄か人生哲学ゼミみたいなものが、いくつも立ち上がっていきました。
こうした事態は、先生のご好意に甘えるということで一応事前の了解はいただいていたのですが、実のところ、合宿での大きな裏カリキュラムでした。
私もそのゼミの議論によく参加させてもらいましたが、実に楽しいものでした。
その延長で生徒たちと、朝まで激論を交わすことも度々ありました。
高二の夏というのが、人生について語り合う一つの絶好期だなと当時何度も思った覚えがあります。
この合宿の効果は抜群でした。
生徒も教師も変化しました。
もちろん個人差はあるにせよ、例外なく変化を呼び起こしていたと思います。
秋以降、成績が急伸する生徒が何人も出ました。
現役で東大・一ツ橋・東工大に早・慶といった一流どころにどんどん受かりはじめたのがこの頃でした。
勉強の仕方が会得できたとか、教科ごとの対策のコツが飲み込めたとか、合宿中身に付けた知識が点数を押し上げたとか、
説明しよう思えばできましたが、本当の理由は違うところにある、と当時確信していました。
価値観・思想が力を増したのです。
合宿中はまだ揺らぎを与えられただけと言う生徒もいたかもしれませんが、
そうした生徒さえ、その後の時間の経過とともに、それぞれがそれぞれの価値観を進化させ思想を成長させていったのだと思われます。
何故そんなことが出来たのか。
第一に本吉先生の存在でしょう。
先生の説かれた思想もさることながら、存在そのものが凄かったと思います。
解き放つオーラと、誰彼隔てない、いつも全く同じトーンのコミュニケーションの取り方。
優しく穏やかな物腰の中にも、信念を貫き通す、教育者としての激しい情熱。
全くのゼロから自らの実践を基に学校を築き上げた自信と迫力。
教師にとっても生徒にとっても、まず彼らの日常ではあり得なかった偉大な人格との出会いは計り知れない大きなものだったと思います。
第二に、あの外界と遮断された環境でしょう。
テレビもなければ、ラジオもない。
しゃれた息抜きなんて絶無。
あるとすれば山の自然のみ。
しかも、夜は熊などの野生動物が出没しかねない、漆黒の暗闇。
自己と真正面から向かい合う、絶好の機会だったに違いありません。
この頃はまだ世にEQ理論などありませんでした。
しかし、価値観や思想が強化されると、成績が上がり易いということは厳然たる事実として認識できていました。
また以前にも、少し触れたことがありますが、丁度この頃城野先生のところで、脳力開発の勉強をしていたこともあって、
脳科学的にも充分説得力のある推論だと自分では納得していました。
EQ開発における、価値観・思想の強化に対する着眼の意味を解っていただけたでしょうか。
いずれこの項に関しては、EQ向上の効果が期待できる思想を幾つかご紹介してゆくつもりです。
本吉先生と私との出会いなどに興味をもたれた方も多いと思いますので、次回は少しその辺をお話したいと考えています。